じゅんさい(蓴菜)





 6月になると、袋詰めにしたじゅんさいが出回ります。じゅんさいはスイレン科に属する水草で、水底から茎を伸ばして水面近くに葉や花をつけます。食用にされるのはぷるぷるの膜に覆われた若芽の部分です。浅い舟に乗って摘み取ります。
 じゅんさいは、「ぬなわ」という名で古くから食用にされていたようで、大阪にあった依網(よさみ)池について応神天皇(あるいは仁徳天皇)が詠まれたという「水たまる 依網の池の 堰杙(ゐぐい)打ちが さしける知らに 蓴(ぬなわ)繰り 延(は)へけく知らに 我が心しぞ いや愚(をこ)にして 今ぞ悔しき」というお歌が知られています。もとは全国の沼や池に自生していましたが、池沼の埋め立てや水質の悪化により、どんどん減っていきました。積極的に栽培されている秋田県を除くと、絶滅の危機に瀕していると言っても過言ではありません。
 京都では、北大路魯山人も賛した深泥池(みどろがいけ)のじゅんさいが有名です。深泥池は、山麓の岩盤から湧き出す水だけで潤されているので水質がよいのです。およそ1万年前から現在の形を保っていると考えられ、氷河期からの生き残りとされる生物と温暖地に棲む生物が共存する貴重な生態系を有しています。1988年には国の天然記念物にも指定されました。一時は池に沿って走る道路の拡幅が計画されて環境への影響が心配されましたが、それは中止となり(だからバスが離合できずに誘導員により交互通行しています)、研究者や地元の方のご努力でゴミの回収や外来種の除去などの保全活動が続けられています。
 蒸し暑くなり始めるこの時期、淡泊なじゅんさいが好まれます。独特のつるんとした喉ごしを活かすために、軽くゆがいて三杯酢やわさび醤油でいただくことが多いです。お吸い物や赤だしの実にも使います。