のっぺい汁の由来




 のっぺい汁は全国に分布する郷土料理のひとつ。地方によりいくつかの呼び名がありますが、新潟県、奈良県、島根県津和野地方の「のっぺい汁」が有名です。漢字で書くときは「能平」、「濃餅」、「野平」を当てているようです。のっぺい汁の原型は、寺院の宿坊で余り野菜の煮込みに葛粉でとろみをつけて出した普茶料理「雲片」を、実だくさんのすまし汁に工夫したもの。中国料理の影響も推察されます。祭り、仏事、正月の催し物がある折に作られることが多いようです。
 奈良県のものが一番古いとされていて、奈良の一年を締めくくる祭り、春日若宮おん祭り(起源=保延2(1136)年)の時、餅飯殿町(もちいどのちょう)にある大宿所では、大和の国中から参集してくる、おん祭りの願主役を勤める大和士(やまとざむらい)に、のっぺい汁を振る舞ったといいます。
 また、江戸時代にはのっぺい汁を専門に商う店があったようであり、各地の郷土料理も、江戸で味を知った人たちが故郷へ伝えたものかも知れません。西日本では鶏が使われることが多いようですが、東日本では鮭やいくらが使われるなど、各地に応じて様々に変化し、それぞれの土地の郷土料理になったようです。共通しているのは、味噌を使わないすまし汁であることと、汁を残さず食べる目的でとろみをつけるところ。
 夏には冷たくしていただくのが私は好きです。